こんにちは。マネックス・ラボでAI関連プロジェクトの開発を担当している倉田です。
先日の World Summit AI 2025 Amsterdam に参加しました! に続き、今回はカンファレンス初日の様子をまとめていきます。
Keynote
ホテルからUberで向かい、30分ほどで会場に到着しました。 ところが、予定時刻を過ぎてもなかなか始まらず……結局、約30分遅れてようやくKeynoteがスタートしました。待ちわびた空気の中、主催者の挨拶を経て3つのKeynoteへと続きました。
Keynote 1. AIの帝国:シリコンバレーは世界をどう変えているか(Empire of AI: How Silicon Valley is reshaping the world)
受賞ジャーナリストのカレン・ハウ氏による講演で、テーマはAIの統治(ガバナンス)でした。巨大AIモデルを開発する企業を「AIの帝国」と批判し、データの独占や環境負荷など、際限ない規模拡大がもたらす弊害を指摘しました。利益を最大化し害を最小化するため、特定の課題に特化した小規模AIへの再投資といった具体的な提言がなされました。
モデルのトレーニングやチューニングが簡単になっていけば、 分野ごとに特化した AI モデルが増え、資源面でもコスパの良いものが登場しそうですね。
Keynote 2. AIの普及、知性と革新が拓く新時代(AI at scale: Unlocking the next era of intelligence and innovation)
Google Cloud CTOオフィスマネージングディレクターのジョン・エイベル氏は、AIの進化が技術と社会貢献を両立し、人間らしい世界を築くと語りました。Googleは創業期から、検索スペルチェッカーやGoogle翻訳、独自のTPUプロセッサなどに象徴されるように、AIとセキュリティを中核に据え、「あなたのデータはあなたのもの」という原則を貫いています。エイベル氏は、ジェネレーティブAIが誰も使える「市民技術」として人の創造性を支え、今後10年でGDPの8%に相当する経済効果をもたらす可能性を指摘。成功の鍵は、技術と人を融合させた「人を中心にしたAI文化」だと締めくくりました。
Google の Gemini モデルは性能面とコストパフォーマンスに優れており、Gemini 3 でエージェント的なコーディング能力が大きく強化されれば、その活用もさらに進みそうですね。今後のモデル展開に特に期待している企業のひとつです。
Keynote 3. AIマインドセットを解き放つ(Unlocking an AI mindset)
AWS データ&AI事業本部 バイスプレジデント、ラフル・パサク氏は、AIをビジネス成果につなげるための「AIマインドセット」について語りました。 ヨーロッパでは毎分約5社がAIを導入するなど、普及は急速に進んでいます。成功企業に共通するのは、明確な目的設定(終わりから始める)、独自データの活用、ガードレールによる規律ある実践、そして迅速な行動という姿勢だということです。AstraZenecaがAIで4万時間超を削減するなど、実例も増えています。AWSはこれらを支えるため、BedrockやAgent Coreなどを含む包括的なAIスタックを提供しています。パサク氏は、AIとエージェント技術がインターネット革命に匹敵する変革をもたらすとし、「今こそ行動を起こすときだ」と締めくくりました。
ランチ:フリッツ
昼食はAi4のときのような無料ケータリングではなく、有料のケータリングスタイルでした。 ハンバーガーやケバブなど、各国の料理スタンドが並んでいました。
せっかくなので、オランダの味を楽しもうとケータリングエリアの外にあったスタンドでフリッツ(オランダ風フライドポテト)を購入。 外はカリッと香ばしく、中はもちもち&ホクホク。酸味の効いたマヨネーズも絶妙で、大当たりの選択でした。 さすが、ジャガイモ文化の国。個人的に「アムステルダムグルメNo.3」に認定です!
午後のセッション
午後はRAG、チャットボット評価、エージェント活用などのセッションに参加。 セッションは最短10分〜最長50分と時間に幅があり、主にパネルディスカッションとソロトークを中心に聴講しました。 特に全社で共有したいと思ったセッションをピックアップして要約します。
Session:消費?カスタマイズ?構築?AI導入を真にスケールさせるには
オラクルのAI担当副社長、ニール・シャレー氏による講演では、MITのNANDAチームによる調査が紹介されました。 その結論は「企業における生成AIプロジェクトの95%が失敗している」という、なかなか衝撃的な内容です。
ただし、ここでいう“失敗”とは、単に技術的に動かなかったという意味ではなく、利益(P&L)へのインパクトを出せていないことを指します。 では、なぜうまくいかないのか?
生成AIプロジェクトの95%が失敗する3つの理由
AIリテラシーの格差
AIチームはMLや生成AIを使いこなしていますが、現場(人事・調達・マーケティングなど)はまだ不慣れ。この知識のギャップが、導入のボトルネックになっています。データ環境の未整備
AIが活用できる形でデータを統合・管理できていない企業が多く、宝の持ち腐れ状態になっている。既存システムとの統合不足
AIが業務プロセスの“外側”にとどまり、実際の仕組みに組み込まれていない。
この状態では、成果を出すのは難しいという指摘です。
横型AI vs 縦型AI
シャレー氏は、AI導入を2つのアプローチに分けて説明しました。
横型AI(Horizontal AI)
コーパイロットやチャットボットなど、体験をより便利にするAI。
使いやすさは向上するものの、利益への影響は限定的。縦型AI(Vertical AI)
業務の中心にAIを組み込み、プロセスそのものを再設計・自動化するアプローチ。
これこそが、企業の収益構造を変えるAI活用だといいます。
成功するAI導入の共通点
シャレー氏が挙げた成功の鍵は6つあります。
中でも印象的だったのは、次の3点です。
- データ基盤の整備 — AIが動ける“土台”を整える。
- Human in the Loop — 人が介在してリスクと自律性をバランスさせる。
- AIエージェントの効果測定 — ビジネスへのインパクトを自動的に測定・可視化できる仕組みをシステムに組み込む。
このほかにも、ノーコード開発、会話的UI、AIガバナンスの視点が強調されていました。
実験から変革へ
多くのAI導入は、まだ“実験段階”にとどまっています。 シャレー氏の話から感じたのは、これから求められるのは表面的な効率化ではなく、 AIを業務の中核に埋め込み、ビジネスそのものを変えていくアプローチだということです。
セッションの感想
このセッションでは、AIエージェントやアプリ開発において、 技術そのものよりも“運用の基盤づくり”が重要だという点が改めて強調されていました。
データの整備、Human in the Loop の仕組み、効果測定、 そして構築したエージェントをどのように評価し改善していくか―― これらは複数のセッションで共通して語られていたテーマでした。
開発をする立場としても納得感があり、社内の業務エキスパートとの連携や、それぞれデータを管理しているチームの協力など、 従来とは異なる体制で柔軟に進めていくことが成功の鍵になるのだと改めて思いました。
夕飯:リブステーキ
夜は中心街を散策し、人気店 Café de Klos へ。
炭火で焼き上げたスペアリブは、表面のクランチーで上品なおこげがとにかく秀逸。香ばしさがふわっと広がり、噛むたびに肉の旨みと脂の甘みがじゅわっと染み出します。この上品なおこげの味わいは、日本ではまず出会えないと思います。 ベイクドポテトと冷えたビールとの相性も抜群で、ボリュームも満点。40ユーロという価格にも納得です。
店内はレンガ壁と木製カウンターが印象的なレトロ空間。観光客だけでなく地元客にも愛されており、入店まで30分待ち。 アムステルダムで「肉を食べたい!」と思ったら、この店で決まり。 個人的アムステルダムグルメ No.2 に認定です。
World Summit AI Amsterdamのまとめ
今回参加した World Summit AI は、以前訪れた Ai4 とは少し違う色があり、両方から多くの学びを得ることができました。 Ai4 は著名研究者や業界キーパーソンが基調講演に登壇し、AI 業界全体の潮流や未来像をつかめました。会場の熱気、業界毎の豊富なセッション、スムーズな運営など、規模と勢いを感じる場でした。 一方、World Summit AI は Google・AWS・Oracle など大手テック企業のスピーカーも多く、内容はより実務寄り。AIの環境負荷やコンテンツの信頼性といった課題にも踏み込みつつ、自社の開発に直結するブースで実践的な話が聞けた点も大きな収穫でした。
セッションのテーマ自体は Ai4 と重なる部分もありましたが、企業ごとの視点が加わることで「AI エージェントの評価」や「データ基盤」の重要性といった核心部分がむしろ鮮明に理解できた感覚があります。さらに LangChain や Mastra など、エージェント構築系フレームワークの最新動向にも触れられ、技術的なインプットとしてもとても有益でした。 2つのイベントを続けて体験したことで、トレンドを俯瞰する視点と実装現場のリアルの両方をつかむことができ、非常にバランスの良い学びになったと思います。今回得た知見も、しっかり社内プロジェクトへ還元していきたいと思います。
最後に、滞在中に出会ったアムステルダムグルメNo.1を紹介して締めくくります。
生ニシンの塩漬けにピクルスと刻み玉ねぎを合わせた、オランダ名物のハーリングサンドイッチです。 ニシンは驚くほど新鮮で、脂の乗ったぷりっとした食感とほどよい塩気が絶妙です。 お魚大国の日本でなぜこれが広まっていないのか、不思議に思うほどの旨さでした。

カンファレンス2日目に続く
2日目は他のメンバーが旅行記を書いてくれる予定です。どうぞお楽しみに。