これ解けますか?解けないならどうしましょう?(前編:メネラウスの定理使えばOKですか?)

 皆さんこんにちは。マネックス証券システム開発推進部 小田切と申します。
 相変わらず世の中大変ですね。このような条件下でも時は進み、受験シーズンは訪れます。私の子供も今年(2021年)初め受験でした。学生さんは在宅学習なども適用され、モチベーションの維持などでとても苦労されているのではないでしょうか。
 マネックス証券内でも、お子さんが学生さんや生徒さんで、塾に通わせる他、親御さん自身がお子さんの勉強を見てあげていらっしゃる方も、結構いらっしゃいます。そんな中、社内のある方がお子さんに与えられた数学の課題を教えようとして困っているところに出くわしました。「この問題、なんか腑に落ちない。」とのこと。拝見すると、問題の流れから、 メネラウスの定理 を理解させるための問題と思われました。今回はその問題を巡って考えたことを書きたいと思います*1

1. 腑に落ちなかったのはどんな問題?

 以下の問題です*2。出題の数値をそのまま利用すると問題かもしれないので、辺の比率は維持して数値を変えています*3。下記のメネラウスの定理を参考にして、皆さん解けるでしょうか?

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解く前にこの問題だけ見て、「あれっ?なんか変。」と思う人がいるかもしれません。図形慣れされている方かもしれません。鋭いです。

2. メネラウスの定理とは

 メネラウスの定理とは以下の定理です。証明などは脚注を参照ください。*4 f:id:money_order:20210719101339p:plain


3. あれ?そんなの学校で習ったっけ?(ちょっと脱線)

 「メネラウスの定理」と聞いて、「あー。学校で習ったことがある。」と判る方と、「そんなの学校で習ったっけ?」という方がいらっしゃると思います。私は「メネラウスの定理」という名称で中学、高校で習った記憶がありません*5。一方で、私の子供が購入した参考書には記載がありました。このブログを書くにあたり、「子供にとっては当たり前なのに、なんで名前すら記憶がないのだろう?」と疑問に思い、調べたところ原因が判りました。
 明治初期からしばらく教科書で扱っていたものの*6、昭和の後半から30年もの間、指導要領から外されていたのです。
 以下の資料をご覧ください。(PDFです。)

 メネラウスの定理という形では、1973年(昭和48年)から学校で教えなくなってしまいました(資料1 p.136)。平成に入った後しばらくして、類似のチェバの定理*7と共に2003年(平成15年)実施の教育課程に基づいた2007年(平成19年)度検定教科書で完全復活(資料2 p.33)しました。なので、時期的に平成生まれの方にはなじみがあると思います。上記の資料2では著者のコメントにメネラウスの定理などについて、「今回の改定ですべての教科書に記述されることになった。受験指導においては、これらの公式を用いる問題を扱う必要があるだろう。」とまでコメントされていました。問題集にも出てくるはずです。メネラウスの定理のWeb上検索対象件数が増えています。中学で学ばせるところもあるようです。
 ですから、「メネラウスの定理 習った習った!!」という方は、平成生まれ位の方か、昭和前半まで生まれの方という事になるようです。私の謎が解決しました。ちょっと横道にそれました。
 では、本題に戻りましょう。

4. メネラウスの定理に当てはめると

 メネラウスの定理に当てはめると以下となります。判りやすいように色を付けました。 xを求める左図は点Aから、yを求める右図ではちょっと視点の変更が必要で、点Fから式に当てはめています。

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 すんなりと解が求まったように見えます。

5. でもちょっと待って

 ちょっと待って下さい。各々の長さが判ったところで、この三角形を正しい長さの比率で描いてみましょう。「図形問題は正しい比率で描くと、結構解法が浮かぶ。」と学生の頃学び、正しい比率でできるだけ描く習慣をつけています。解の確認時も含めて、実比率での描画は、今の学生さんにもお勧めです。
 三角形ABCを主として描くと左図。一方、三角形BDFを主として描くと右図になります。もう一方の三角形を点線で重ねています。点DがAB上に存在しません。

三角形ABCを主 三角形BDFを主

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 ∠Bに着目して下さい。大きさが一致していませんね。念の為、第二余弦定理を用いてそれぞれの角度を計算してみましょう。 

第二余弦定理 三角形ABCの角B 三角形BDFの角B
 

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 計算上も角度が一致しませんでした。そうなんです。もともと題意の三角形はありえない三角形だったのです。なので計算後、違和感を感じたり、判らないと思う方がいらっしゃたわけです。
 中高生向けの問題集なので問題の作成者さんは、多分、計算をしやすく辺の長さを整数にしたのでしょうが、作成者さんメネラウスの定理だけを考えてミスをしてしまいました。たくさん並んでいた問題の一つですので、「この三角形は存在しない。」とされている一部で有名なマイクロソフトの三角形問題のような事は作成者さんは考えてはいなかったと思います。

6. ではどうしたら良いでしょうか

 △ABCの形状を維持し、妥当な問題とするにはどうしたらよいか考えてみましょう。辺DFの長さ(従って、与えるDEの長さ)をもっと短くすればよさそうです。
 まず、
案①:DEの長さ8cmでは問題として成立しないので、DEの正しい値を与え、EFの長さ(y cm)を計算させる。
 さて問題です。DEの長さは何cmが正しいでしょうか。答えの判った方は、このページの下方に移動し、新卒あるいはキャリア採用を申込んで下さい。入社後、私と答え合わせを致しましょう。答えを知りたい人も申し込んでくださいね。
 といっても、この計算値、前提として与える数字としては、実に不適当な値です。
 より妥当なのは、
案②:DE、EFの長さの問題とせず、DEとEFの比率を求めさせる問題に変更する。もともとメネラウスの定理は比率が重要な意味を持っています。長さを比率の問題に変えました。この案②にすれば、辺DEの長さを与える事も不要となり、中高生向けの問題として良かったかもしれません。

7. まとめ

 今回、「ある公式に当てはめると成り立つ。でも同時に成立が必要な他の法則・定理を当てはめて考えると、実は問題がある。」という例でした。その場合、どうしたら解答可能な課題とできるようになるのか?何か条件を変えればよいのか?と考えてみました。この問題に限らず、似たようなことが生活する中や、社会に出てからもありませんでしたか?「○○の仕組みがあるからできるはず。」ということで始めたら、制約条件や無理な前提を与えられ過ぎてできなかったとか、違う条件にしてもらいできるようにしたとか、改めて思った出来事でした。
 

次回は、別事例として最近知った「マイクロソフトの三角形」と言われる図形で考えたことを書きたいと思います。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 

小田切 貴秀システム開発推進部 エンジニア

*1:同じ問題ググっても見当たらなかったので、ブログにしてみました。既にどこかにあるようでしたらご指摘いただけるとありがたいです。

*2:手書き問題のコピーとかガリ版印刷ではなく、ちゃんとした印刷された問題でした。

*3:全部偶数で元の値がバレバレですね。

*4:Wikipediaのメネラウスの定理を参考にしました。

*5:単なる物忘れという話もありますけど。

*6:明治5年にはこのようなカリキュラムができており、これを考えた祖先には敬服します。

*7:どうでも良いですが、チェバって英語だとCevaって綴ります。イタリアの方でした。